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二人の航海者

第3章 心のフィルム


鍋に入れた野菜類が柔らかくなったのを確認し、秘伝の味噌を投入してぐつぐつと沸騰手前まで煮込む。完成した味噌汁を器に注ぐ。ほうれん草のおひたし等の小皿の料理などをフランソワと作り、キッチンからテーブルへと持っていく。

「蒼音!!」
「なに、龍水君」
エプロンを着たまま料理を並べる蒼音に、龍水が心底嬉しそうな顔を向ける。

今回のこの顔の原因はエプロンか?でもエプロンならフランソワさんも付けてるし、料理は彼女、彼……あーもういいや、フランソワさんの方が上手で手際も良いのだが。名前を呼んだきり、ニコニコしている龍水。本当に何かわからないが、まあ嬉しそうだし放っておいていいか。料理を並び終えた蒼音はキッチンでエプロンを取って食卓に行くと——

「き、貴様……!エプロンを取ったのか!?!」
「だってこれから食べるし、料理終わったし」
「今すぐ付けて来い!俺は貴様のエプロン姿が」
「あーハイハイ付ければいいんだろう?分かったよ」

仕方なく戻る。やはり原因はエプロンか。それだけ付けて食卓に戻る。蒼音が龍水の隣りの席に座ると、じーっとこちらを見てくる。熱に浮かされた様にぽーっとしているので心配になってきた。変なのはいつもだが、何時にも増しておかしい。

「龍水君?これ位、私が料理した時に沢山見れるだろう?ご飯が冷めるぞ」
「……!これから幾らでも見れるのか?」
そりゃまあ。私が食費浮かす為にやるからと蒼音が頷くと、嬉しそうにしながらバッシィィイン!!と派手な指鳴らし。

「はっはーー!貴様のエプロン姿を何度も見れるとはな!だが写真にも収めて七海博物館に飾って」

「おい止めろ!目に焼きつけたまえ!!人間は何時でもカメラを持ち歩いてる訳では無いだろう?今見ているのが【最初で最後】という瞬間だってあるんだ。だから心底好きだと思う景色なら、それくらい瞬時に心のフィルムに刻め!!」

ヤケクソで捲し立てる蒼音。いつもはこの無理やり説得する役目は父親だった。彼もこんな気分だったのだろう。同じ立場になった今、痛い程気持ちが分かる。

「貴様の言う通りだな。なら有難く俺の心のフィルムに刻むとしよう!!」
エプロン姿程度で刻まれる心のフィルム。直ぐに全部埋まりそうだと思いつつ、蒼音は手を合わせる。
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