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二人の航海者

第3章 心のフィルム


フランソワが慣れた手付きで今回のメニュー、和食と言えばコレ!まあ好みが分かれない定番、肉じゃがを作る。

蒼音は『龍水君、君は《お小遣い》で好き勝手するから怒られるんだ。自分で稼ぐ力を付ければ問題無いのだよ』と言いくるめて、六道院家出身の経営者の傍で勉強させている。学校の勉強よりも、実際に経営者の元で学ぶ方が楽しいらしく、その血縁者にも『彼は才能がある』と褒められていた。実際、蒼音が今までしてきた様な利益を出す業績も上げている。

「いえ。私は私なりの距離感で、彼に恩を返しているだけですから。龍水君の才能も伸ばせて、ウチの関係者の龍水君への好感度も伸ばせて。一石二鳥ですし」
蒼音は自身の担当の味噌汁作りにかかった。実家からこっそり持ち出した秘伝の味噌をスッ、と出す。

「一石二鳥どころではありません。蒼音様は更にその先の龍水様の夢を見据えてらっしゃるのでしょう?」
フランソワが調理しつつ尋ねる。鋭い。龍水の執事を長年勤めるだけある。

「はい。彼が航海するなら、人を率いる【上に立つ力】と、資金を集める力が必要です。特に龍水君の場合は帆船で世界を周るのが夢なのでパワーに長けた人を集める必要があります。現代では、中々そういう風変わりな趣味に付き合う人はいませんし……。

龍水君はその辺お金で何とかするかもしれませんが、今の元手は七海家のお小遣いです。自分の力で完全には稼いでおりません。いずれ限界が来ます。早期に夢を達成するには、そこの力が必要です」

そう言いながら蒼音がキャベツを刻めば、フランソワさんのフ、と笑う気配がした。

「……?何か間違ってましたか、フランソワさん」
「いえ。むしろ蒼音様こそ、龍水様の一番の理解者である、と。僭越ながら思いました」

それは言い過ぎですよ、と蒼音は笑った。フランソワは性別が分からない。性別は知らん!と言う龍水に最初こそ引いたが、確かにこんなにしっかりした人の前ではそんなの些事だろう。

龍水は夢の共同戦士で、フランソワは。また別の意味で、本音を言える人か。友達も居らず、母を亡くし。父に厳しく育てられた蒼音は、天涯孤独の様なものだったが、短期間で随分と様変わりしたものだ。
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