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二人の航海者

第2章 世界の歌姫の小さな一歩


また『欲しい』か。最初言われた時は恋愛感情かと思ったが聞き慣れた。龍水の『欲しい』は今日食べたいご飯はコレレベルの頻度と気軽さ。いや、もっと頻度は上か。上方修正しないと釣り合わない。蒼音はやれやれとため息をつき、龍水に向き直る。

「許嫁なんだから既に手に入れた様なものでしょ?美女も他の女の人にも言ってるんだろう」
「ッ!?だが……!」

「あと女は皆良いところがあって美女というのが君の信条だろう?無粋な発言をするな」
龍水はわなわなと震え。カッ!!とその印象的な大きな瞳を更に見開いた。
「俺は!貴様を必ず!!手に入れてやる!!!」
ハイハイ、と言いつつ蒼音達はゲーセンを後にした。

******
契約婚約から何年もの時を経て、蒼音と龍水は成長した。龍水は中学生にして船長。今では世界を船で周る様になった。

蒼音は中学生で歌手デビュー、高校生にして世界を周るトップクラスの歌唱力を持つ天才若手歌姫『Aonn』として名を馳せていた。歌を好きになったきっかけと言い続けたおかげか。あのリリアンともコラボして互いに作った楽曲を歌いライブで伴奏やコーラスをした。かつての鬱鬱とした日々に、今ではカラフルな色が付いた。

龍水と、蒼音。共に海をも渡り、世界を渡る存在となったのだ。

時が経つに連れて、龍水の好意が本気で本物だ、という事実がじわじわと蒼音の心を侵食した。彼は蒼音に心底執着し、ひたすら夢を応援し、数え切れないくらい『貴様が欲しい!』と求愛してきた。龍水が本当に欲しいもの位、天才と呼ばれた自分が気付かない訳がなかった。

でも怖かったのだ。もし受け入れてポイッと捨てられたら?美女は何十億人もいる。私だけ特別扱いなんてするだろうか。ずっと大事にしてくれる保証は?他の人に目移りしない保証は?そんな【別れの未来】の確率は、蒼音の天才の頭脳でも分からない。

どうしても彼を信じきれない蒼音は、『人の価値観を見て知見を広めろ』等と言い、龍水が沢山の女性と付き合う様に仕向けた。誰かが彼を愚かな恋の熱から覚まし、蒼音の頭が本格的におかしくならない様に。
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