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二人の航海者

第2章 世界の歌姫の小さな一歩


だが誰も龍水の心を射止める女性は居なかった。美女達の方から好きになる。龍水は誰にも美女と言うので、『一番好き、にはして貰えないだろう』と彼女達から去っていった。気持ちは分かる。皆平等に『美女』扱いなら恋人の意味が無いんじゃないか、という不安。蒼音はただ龍水の放蕩息子ぶりを見届けた。

やがて成人年齢になり、このまま彼と結婚するだろう所まで来た。それならそれで、蒼音は今まで通り天邪鬼を演じつつ、何とかやっていこうと思っていたが。

番組の収録後。休憩時間を街の公園で過ごす蒼音の前に、突然として謎の巨大な光が現れた。光に当てられた人が石になる。自身の死を悟った。

咄嗟に婚約者——【七海龍水】の姿を思い浮かべる。この謎の光すらも欲しい!と彼なら派手に指鳴らしするだろうと笑い。自身も同じように、右手を高く上げた。プロデューサーが不思議そうな顔をしたが、構わない。視線すら今は気にならない。
いいだろう。最期の瞬間くらい、嘘つきが本心を言ったって。蒼音は息を大きく吸った。

「————好きだ、龍水!!!!!
私は本当はずっと君が、欲しかった……!!」
光が届く手前。パチィン!と微かに指を鳴らした。嗚呼、彼みたいに上手く鳴らせないし敵わないなあ、と笑い泣き。

その日。六道院蒼音は、石像になった。
3700年、蒼音は思考の海の中をひたすらに渡った。意識を飛ばさずに起きたまま、龍水への本当の気持ちを脳内で歌い続けた。起きてるなら何かしらエネルギーが必要なのに、ずっと思考していられる。それに初期に気付いた彼女は心中でほくそ笑んだ。

へえ?さっきの変な光は、終わりじゃなくて本当の勝負の始まりか。しかも少し気を抜けば意識が飛ばされそうになる、と来た。ふふ、この天才と呼ばれる頭脳の私に、頭脳での耐久勝負を挑むか……!

《面白い、上等だ!それくらい何時までだって付き合おう》

蒼音は龍水を思い描き、大海原へと漕ぎ出した。 もしかしたら。いつか、会えるかもしれない。こうして生きてさえいれば。微かな希望を胸に灯し、少女は誰にも聞かれない世界で愛を唄う。

それは、本当に永き航海への入口であった。
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