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二人の航海者

第2章 世界の歌姫の小さな一歩


「くっ、何故だ蒼音!貴様さては玄人なのを隠していたな!?」
ダンダンと悔しげに龍水がゲーム台を叩く。習い事でプロに教わっていたらしいが、全て蒼音が勝利した。たまたま筋が良かっただけである。

「蒼音!今度はあっちのゲームで勝負だ!」
「はは、龍水君は容赦ないな」
「フン!それは貴様の方だ!」
が、どのゲームも全敗。ズーーンと沈んだ空気を纏い龍水は呟いた。

「何故だ!何故勝てない!?レーシングカーもゲームも習っていると云うのに!」
「仕方がないね、龍水君は。まあ見てなよ」
蒼音はため息をつき、ひとつのクレーンゲームの台へ。そこには、船長帽子を被った格好良さと可愛さを兼ね備えた海賊ウサギのぬいぐるみ。

「よく見たまえ。物事は最も少ない努力で最大限の効果が出る様にするんだ。その為に戦略がある」
ゲーム台をじっくりと多角度から慎重に眺める蒼音を、龍水が見ている。狙った獲物を取るためのシュミレーションを脳内で組む。三百円のなけなしの自分のお小遣いを差し込み。三回、シュミレーション通りに正確に機械を操作する。

「……………ッ!!」
見事狙ったぬいぐるみがポトン、と穴に落ちた。
「一度で完璧にする必要など無い。出来なければ何度でもやればいい。失敗は当たり前だ。むしろそれすらも糧にすればいい」
蒼音がはいコレ、と龍水にぬいぐるみを差し出す。

「蒼音が自分の金で取ったのだぞ?貴様の家は小遣い月千円のドケチな家なのだろう。手柄は……」
「無粋な事を言わせるな、龍水。君の為に取ったのだ。私の心に値段などつけるな」
龍水がその言葉にはっとした顔をした。

「なら、有難く頂戴しよう!!」
ぬいぐるみを嬉しそうに受け取り抱き締める龍水。船が好きだからこれでいいかと適当に選んだが、妙に突き抜けた格好良さとこういう可愛さを併せ持つ、という意味ではピッタリかもしれない。立ち直ってうさぎ海賊ぬいぐるみを抱き締めながらニコニコとする龍水。蒼音がそれを優しく見守っていると、此方を見た龍水が固まった。頬が赤く染まっている。

「どうしたんだい?龍水君」
「……欲しい」
へ?とよく聞こえなかったので聞き返す。
「蒼音。貴様が欲しい!貴様程の美女は居なかった!!絶対に貴様を手に入れる!!」
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