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二人の航海者

第2章 世界の歌姫の小さな一歩


ふっ、と息が零れる。心から思った。『面白い』『そんな壮大な夢を叶える奴が居るなら見てみたい』と。龍水がまた船の話をする。楽しそうな姿は歌に純粋に熱中していた頃の自分を想起させた。

「蒼音、貴様の話も聞かせろ!」
ふんぞり返った龍水が命じる。これ断る権利無いなと思いつつ話した。例のカバー動画も見せる。

「……蒼音」
「どうしたの、龍水君」
ふと真剣な声音になった彼に問いかける。

「貴様の歌は、世界に轟くだろう。俺には見えるぞ、蒼音の歌が、海をも超えて世界中の人々を震撼させるのが!」

そう龍水が断言した。世界。才能あるとか、頑張れとか応援の言葉すら言われて来なかった私が、海をも声で超える。そして、 蒼音はイヤと言うほど知っている。目の前の真っ直ぐで欲望に正直な少年は自分と違い、こんな事を嘘や打算で言わない人間だと。

「うん。そうさせてみせるよ。そしていつか、リリアンと共演してみせるから」
決意の言葉を述べ、蒼音と龍水は笑いあった。束の間の、楽しい時間が終わる。料亭前にて、別れ際に龍水がやって来て尋ねた。
「蒼音。貴様は何処の学校だ?」
「え?凛堂院学園」
「はっはーー!そうか!!」
バッシィィイン!ともはや聞きなれた音を鳴らして彼はリムジンに乗り込んだ。

「……蒼音!」
まだ何かあるのか。怪訝そうに振り返る蒼音を他所に——彼は、その日いちばんの笑顔で笑った。眩しい、太陽の様な金色の光。

「俺は、貴様が欲しい!!」
「……は?」
突然の告白。何故?まさか私に恋愛感情を?許嫁になる以上、もう手に入ってると誤魔化し蒼音は自分の車に乗り込んだ。

******
「はっはーーーー!【六道院蒼音の婚約者】の七海龍水だ!!よろしく頼む!!」

一週間後。七海龍水が、転校生として挨拶していた。何故か婚約者の名前を強調してバッシィィイン!と指鳴らししている。余りにもよろしくする気の無さ過ぎる挨拶。皆が鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をする中、蒼音はひとり冷静に『あーコイツの欲を舐めてたな』と反省した。

あの後、蒼音は父親に見合い成立とだけ報告。有り得ないという顔をする彼に、笑顔で告げた。
「なかなか面白かったし。彼ならいいよ」
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