• テキストサイズ

二人の航海者

第2章 世界の歌姫の小さな一歩


自身を気に入った理由は分からないが、儚げ美少女な写真に惹かれたんだろう。蒼音は冷たい声で返した。

七海龍水はぴっちりと着こなした光沢のあるシャツにズボン、サスペンダーに蝶ネクタイ。全て高級品だ。派手な金髪に気の強そうな瞳。絵に描いたような金持ちの息子。が、視線は何故か好奇心満々だ。不快にならないのかこれで。トンデモ道楽息子なのに?

すると彼が大声で叫んだ。
「貴様。さてはこの話、はなから俺に断らせる気満々だな?選ぶ場所は普通だが、それ以外が普通じゃない。その服も、その冷たい態度も断らせる為と見て取れるな。何故だ?俺との見合い話なら、皆一様に媚びを売るはずだが」

へえ?断らせる為と分かっていて、なお理由を訊く。しかも『皆一様に媚びを売る』ね。面白過ぎるし、家柄自慢に腹が立つ。ふふ、と蒼音は思わず声に出し本性丸出しの笑顔で笑ってみせた。いいだろう、フルボッコにしてやる。

「龍水君、といったかな。君の言う通りだよ。見合いなんてクソ喰らえだ」
一息に挑発文を並べ立てると、呆気に取られる龍水。無理もない。どうせ外見に惹かれたのだろう。それら全部ぶち壊した上で、取り柄の『家柄』を潰したのだから。すると襖の外から声がかかった。向こうの執事だろう。

「御二方。そろそろお料理の方はいかがでしょうか」
「いえ、料理はけっこ」
「もちろんだ!フランソワ、直ぐ持ってこい!」
蒼音の台詞を遮り龍水が指示を出す。これには唖然とした。訳が分からない。

「君。今ので怒らないの?というか、そうして貰わないと困るな。こっちは早く帰りたいし」
普通に威嚇するが、先程より輝きを増した興味津々の瞳で彼は言った。

「なあ貴様。俺と同じ、一族の『異端児』なんだろ?そして同時に『天才』扱いされてる」
へえ?ここまで言われてまだ怒らない。しかも本質を言い当てる、か。頭が良いと云うのは本当らしい。そして煽る程、興味津々になる。仕方がない。蒼音は彼を見据えたまま、自身の経歴をざっくり並べ立てた。

「でもね、それらの『向いてる事』よりも、ずっと『やりたい事』があるんだよ」
スッ、と茶を一杯啜る。本音を出すのは父以外で初めてか。母は幼い頃に病で亡くしているので、自分によく似た顔の彼女を知らない。龍水が身を乗り出した。
/ 117ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp