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二人の航海者

第2章 世界の歌姫の小さな一歩


「ご本人が?何故でしょう」
「分かんない〜〜〜!!」
集まった女子生徒達が大合唱した。嘘だろ、私の渾身の演技は?蒼音はガクッとしたが、結局それ以上の情報は他の生徒から引き出せなかった。

******
見合い当日。
送迎車の中で、蒼音は好きな歌手の曲をイヤホンで聞いていた。リリアン・ワインバーグ。世界規模で活躍し、その歌唱力は世界トップクラスと言われる。蒼音も過去に【小学生がリリアンを歌ってみた】という、如何にもタイトルでウケそうな動画をYouTubeにアップした。使用した機材は今は没収済みで、動画はせめてもの情けでそのままだ。

自作曲をアップした事もあるが、『脅威の歌唱力の小学生』として伸びたリリアンのカバーには及ばない。だから消去した。それ程リリアンが素晴らしく、自身には才能が無いと言うことだろう。私は【小学生】でこの歌唱力ってだけ。歳を取れば価値の無くなるアイドルと同じだ。『One Small Step』を聴きながら、蒼音はぼうっと外の景色を眺めた。

詰まらない。何もかもが。世界が色褪せて見える。歌だけが唯一の楽しみで、学校の音楽の授業で私の歌を目を輝かせて聞いてくれるクラスメートの姿を見るのが、数少ない喜び。でも音楽の道には進めない。欲しがってはいけないのは分かる。家の体裁も歴史も分かる。自分が天才故に縛られるのも——分かる。
だからこそ、たまに思うのだ。

《もっと世界が面白かったらいいのに》
そう思う間にいつもの料亭に着く。蒼音は最上級の部屋、戦場へと出陣した。

今回の武装は白ブラウスに、黒の膝丈スカート。赤く細いリボン。そこら辺の洋服店で売ってる物だ。庶民的で地味な服は好まないと踏んだ。

迎撃相手——『七海龍水』君。彼は【欲望】の塊だ。欲を持つ事すら許されない蒼音と違い、億単位のお小遣い。欲しいモノは何としても手に入れる。頭が良く、能力値は高いらしい。座して敵を待つ。必ずやその首を討ち取る。蒼音が静かに正座していると、部屋の襖がズジャアと開く。敵のお出ましか。向こうの執事が外で控えているらしいが、構わず殺るまでだ。ドスドス遠慮なく自分の真ん前の席まで移動する音。

「おい、貴様!」
ドカッと座布団に座る相手。そこでやっと、蒼音は声を発した。
「なんでしょうか」
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