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二人の航海者

第10章 二人の航海者


「じゃあそろそろ式を始めようか」
作法ガン無視のくだけた結婚式だが、一応誓いの言葉はあるらしい。

「新郎——七海龍水。君は『六道院蒼音』を妻とし、健やかなる時も、病める時も。喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も。妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い……
その命ある限り、真心を尽くす事を誓うかい」

「ああ。誓おう!!こんな言葉なぞ無くともそうする!!絶対に蒼音しか愛さんぞ俺は!?これでもかというくらいに愛してやろう!」
バッシィィイン!!!と派手に指鳴らしセットで自由な誓いの言葉をする龍水に、フフ、と蒼音が笑う。

「では新婦、六道院蒼音。君は……」
同様に紡がれた神父・司の言葉に、蒼音も龍水同様に倣って自由に返す。

「ああ。誓おう。3700年分待ってた天邪鬼な悪女だが……かつて歌手の夢を絶たれた私に差した太陽だ。その光を、私の命を賭して守ろう」
龍水の言葉に、蒼音の言葉に。拍手が湧く。その最中。蒼音は3700年前から気になっていたが、聞けずにいた質問を龍水に投げた。

「龍水、覚えてるかい?あの夏の日のお見合い」
「?ああ!蒼音と初めて会った日だろう。それがどうかしたか?」
「……そもそも何故、この私を選んで契約許嫁になろうと思ったのか。不思議だったんだ」
その言葉に、龍水が少し黙りこみ答えた。

「歌が好きだと言う時の、貴様の笑顔が綺麗でな。それを……護りたかっただけだ」
契約して対価を払ってまで許嫁になるには、ささやかすぎる理由に、蒼音は目を丸くした。本当に、この横に立つタキシードの男は。七海龍水は最初から自分だけに愛を注いでいたのだ。

かつて龍水が惚れ込んだ笑顔で、蒼音は返す。3700年の時を超えて、本当に言いたかった言葉を。

「ありがとう、ずっと護ってくれて。あの日、あの夏の日が無かったら、私はきっと、死んだように生きてた。君のお陰で、世界に色が付いたぞ」
「フン、礼には及ばん!俺が貴様の笑顔がどうしても欲しかっただけだ!!」
そっぽを向く龍水にくすくすと蒼音は可笑しそうに笑った。
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