• テキストサイズ

二人の航海者

第10章 二人の航海者


「蒼音。そろそろ少し休んではいかがでしょう?」
「え?」
「少し、目の下にクマが見えます。寝不足でしょうか」
顔を寄せたルリに、はは…と蒼音は笑った。間近で見ないと分からない程度だが、若干クマができていたのだ。船出の手前、緊張し眠りが短くなったからだ。情けないのでデパート千空の売り物の一つである伊達メガネで誤魔化していたが、潮時か。

「あとは私達でやれますので、蒼音は今日は休んでください」
頷く周囲の皆に、じゃあ有難くと蒼音が家に帰った。

「ただいま、リュー……す、い………?」
扉を開けて、部屋の中のうさぎに声をかけたが。ポトン、と。ぬいぐるみが床に転がっていた。窓は開けていない。地震とかも無い。ちゃんとベッドの上で座らせて置いたのに。まるで虫の知らせ。死者が送るメッセージ……そんな考えをかき消して、急いでぬいぐるみに外れてしまった帽子を被せた。

「沈まないから。龍水の船は、沈まないから……」
そう言って、蒼音はぬいぐるみを抱いたまま、ベッドに潜り込んだ。

「そうだ、リュースイ。君に、お洋服も作るよ。折角だし、格好良くて派手なのにしよう?私、君を大事にして待ってるから……だから。あっちの『龍水』は、大丈夫だ。大丈夫……」
蒼音は、『リュースイ』と密かに呼ぶぬいぐるみと共に眠る。その龍水の危機の最中、自身が希望のバトンを繋いだ事を知らず。
/ 117ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp