第10章 二人の航海者
出航から数時間後。船が無事に宝島に着いて、嵐で汚れた船を皆で掃除する中、一人の人影が現れた。
「誰だ、貴様?」
龍水の問い掛けにも答えずに何かを投げる。恐らくは手榴弾等の攻撃の類い。クソッ、こんな所で蒼音との約束を破るとは。禍々しい光の中、龍水は救える者を探した。俺の死は確定したが、スイカなら……
龍水は蒼音が託した希望の綱を、蹴りあげた。
「はっはーーー!!生きろスイカ!!!千空達に船が襲われた事を伝えろ!」
スイカは蹴っ飛ばされた先の木の上で、皆を見た。石像になった龍水と、皆。何故か自分は助かってしまった。
「どういう事、なんだよ……?」
なんで、龍水は。待つ人の居る龍水が自分を。
《大丈夫だ。自然に詳しくて潜入も出来る君なら、『お役に立てる』さ》
ふと、自分を送り出した蒼音の言葉が思い浮かんだ。一緒に眠る時も、暖かく抱きしめてくれた。お姉ちゃんとかは自分には居ないが、もし居たら……こんな感じなのかもしれない。そんな蒼音の、言葉を。
「スイカが、お役に立つんだよ…!!頑張って、みんな助けて!ちゃんと、龍水の船を送り返すんだよ…!!」
微かな希望を胸に、彼女は自身の武器を奮った。
******
千空達が宝島に着いた頃、司帝国。
「よし、皆きっちり配置に着いて作業している様で何よりだ」
ケータイで業務連絡を取り終えた蒼音が笑った。
出航後、残留組トップの蒼音が人員振り分けと予定表を配った。石油や鉱物発掘、更なる作業効率の為にアスファルト舗装道路の拡大など陸路の運搬ルートの確保。冬場には暖房設備などを運転。
他にも現在ある公共用の浴場等の施設管理に、科学学園の学園長兼、講師としての人材育成。やる事は山のようにある。それら全てを総括し国を治めるのが軍師・蒼音の仕事であり役割だ。同じく科学王国講師として働くルリがサラサラと横で文字を連ねる。ルリは蒼音の書記官の仕事をしていた。紙には通信内容を記録している。文字と計算も蒼音から教えてもらいすっかりモノにした。