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月が欠けた日から…

第23章 殺せんせーとカエデのこと


生命の中で反物質を生成させる。それが柳沢の研究の核心だった。反物質生成に必要な粒子の加速サイクルを生命のサイクルに組み込み、巨大なエネルギーで細胞のエンジンを始動させる。

「柳沢。手足がだいぶ痺れます。寒気も少々。」

「さんを付けろ!末梢神経障害がでてるのか。」

私自身が実験を巧みにコントロールさせれば成功確率がさらに高まる。人智を超えた破壊の力が手に入る。



「うわぁ、今日はチェック項目が多いなぁ。急いで進めないとまた叩かれちゃう。」

「叩かれると不都合でも?」

「まぁ一応、本職は教師ですから頭悪くなったら困ります!」

教師…。そう呟くとまた柳沢が入ってきた。

「あぐり!待たせるなと何度言ったらわかるんだ!」

「ごめんなさい!すぐやります!」

「体力と事務職だけが取り柄だろうが!モルモット観察ひとつもできないのか!言ってダメなら体に教えて…!」

「死神さん…今何を…」

「麻痺させただけですよ。これで明日も教師ができますね。」

ここに来て3ヶ月も経つ頃には殺し屋と教師は旧知のように打ち解けていた。

「二次方程式ならこれくらいひねらないと歯応えがない。進学校の生徒なら尚更です。」

「うぅ。本職の教師が殺し屋に授業されてる…。私より教師に向いてますよ!死神さん。」

「まぁ、仕事上大学教授にも化けますからねぇ。ですが、私に教師は向いてない。1人だけ教え子がいたんですが裏切られましてね。そのせいで私はここにいるんですが。」

「分からないものです。ほぼ完璧に能力をのばし、ほぼ完璧に管理してきたつもりなんですが。」

「わかる気がする。多分その生徒は見て欲しかっただけなんですよ。あなたに。」

「ちゃんと見てたんですがねぇ。能力や生活をよく見るのは人心掌握の基礎ですから。」
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