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船上の医師

第3章 君の肩には


「海には航路、というのがあってな」
 海図をホワイトボードに貼って行われる龍水の講座を、船員達が聞いている。雪乃も仕事が落ち着いたので、一番広い部屋である食堂でそれを聞いていた。航路とは海の高速道路。ここの部分はこのルートを通る、等と決まっているのだ。今もその航路を守っている。現在風を受けてはためいている帆は朝に皆でロープを引いて張ったものだ。雪乃も参加したが、なかなかの力作業だった。そんな帆船の船員を集めるのもきっと苦労したのだろうが、龍水には人望がある。お金もあるだろうが、きっとそっちで何とかしたんだろうなと思いながら雪乃は真っ直ぐ龍水を見ていた。
 
 するとチラリと視線が合った龍水が、パッと顔を横にズラした。ん?あれ?私何かやったか?雪乃、何がなんだがよく分かっていない。そうしてる間にも、船は港の中へと戻りゆく。舵輪を握り操舵していた龍水は、汽走の為に他の船員にバトンタッチした。ここからはエンジンで走らせる。目的地まで船を走らせて、錨を下ろす。
「今回錨を下ろす場所はここだ。『M』と書いてあるだろう。これは『Mud』——つまり泥だ。他のR、『ROCK』なぞは錨が上手く刺さらん。だから船乗りはここを避けてMに錨を下ろす」
 海図を持ってそう説明する龍水に、成程と頷く雪乃。
 
「よく調べてるんだね」
 雪乃は素朴な感想を述べた。そうか?と龍水は言いつつも嬉しそうだ。ほんのり顔を赤らめつつ、なあ貴様と声をかけてきた。
「俺は……大きくなるか」
「ん?そりゃあもちろん」
 だって187cmになるし、と思い雪乃は頷いた。雪乃の思う大きくなると龍水の思う大きくなるは全然違う。人間として大きくなりたい、と。龍水はそう思って聞いたのだが、どうも違った返事が帰ってきた。
「貴様、俺は人として大きくなるかどうか聞いたのだぞ!?」
「え、そっち?そっちは知らないなあ。今と変わらないんじゃない」
「なんだと!?」
 また喧嘩しつつ、違うよ今も充分人としてデカイからねと雪乃が言えば、龍水が顔を赤く染めて叫んだ。
「き、貴様ーーーーッツ!!そんな口が叩けぬようにしてやるからな!?」
「え、何なに??河原で喧嘩する?友達として」
「違う!いや、それもやってみたいが違う!」
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