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船上の医師

第3章 君の肩には


「医務室は作ったんでしょう」
「ああ!貴様専用の部屋だ。どうだ、今から見にこないか」
 急な誘いに、うーんと雪乃は首を捻った。今からか……仕事終わりの身にはキツい。ので別途日程を組んだ。
「じゃあまたな!」
「ハイハイ。生き急ぐなよ〜」
「何を言っている、俺はこれが通常運転だ」
 と言いつつ龍水からの通話が切れた。龍水はいつも何かしら欲しい物に邁進している。雪乃からすればもうちょい手心というか、加減という物を覚えて欲しいのだが老婆心からくる忠告には耳を貸して貰えてないのが現状だ。

 「羨ましい限りだな」と本音が漏れた。十九歳の癖に世の中を生き抜いてきたスレてる子供っぽさのない人というのが現在雪乃への評価である。雪乃が転生者なのを加味すればそれは別に大した事ではないのだが、それでも周囲にはそう見える。そんな変わり者の天才が、これまた変わり者の御曹司と組むのだから、余計に変人扱いを受けているのである。
「でも私だって欲しいよ」
 患者の命が。これから先、原作で失われて行くはずの人間の命が。欲を言えば、司や氷月が犯した罪すらも上書きしたいのだが、それは無理だろうか。そこまで考えて、雪乃はどうも身近にいる欲しがりの王様に自身が引き摺られている事に気が付いた。これは参った、一本取られた。天才という名で周囲から常に浮いていた雪乃からすれば、身近に誰か居る方が異常。それが原作キャラで主要なメンバーならばなおのこと、だ。
「……人類70億人全員もれなく助ける、か」
 雪乃は欲しがりでも、龍水とはまた違ったタイプの人間を思い浮かべた。石神千空。今は推定9歳の彼は、まだゼノとすら出逢っていないのだ。いずれ3700年後に出会う人間の顔を思い浮かべながら、雪乃はタクシーを呼び後部座席に滑り込んだ。
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