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月を抱く

第1章 未知の味


「おや、来ていたのですね」

「おはようございます、司祭。ラキの事なのですが……
やはり最近は特に周りの成長とは違う事が気になるようでして」

「そうですか、仕方がない事ですがやはり子供は育つのが早いですね。
悪い事ではありませんよ、いつか来るものです。
……奥で話しましょうか」

司祭に連れられて狭間へと歩みを進める。
何色とも言いがたい光は輝くというには暗く、静かに蠢いていた。
ラキはここから"生まれた"のだ。
いや、正確には流されてきた、というべきか。

「ラキはピュアヒューマンなのでしょうか?」

「うーん、容姿だけならばそうですね。
しかし食性は僕たちと変わらないのですから、
共に暮らしていくのは難しくない筈です」

"狭間"は魔王による侵攻でこの世界にできた裂け目なのだという。
その力は今やロストテクノロジーと化し裂け目が増える事はない。
危険性や偉大さの象徴である事から吸血鬼は裂け目に教会を築き、そこに村や街、国が生まれるのだ。
裂け目は死の世界だとか異世界だとか、どこに繋がっているかは分かっていない。
稀に、そこから異界児がやってくるのだ。

「私は……私はラキに吸血鬼ではない、と伝えるのが恐ろしいんです。
まるで、私たちの繋がりが断たれてしまう気がして」

「レグナ……あの子は神のお使い、異界児です。
どのような道を選んでもそれは神のお導き、
そして今まで家族であった事は変わりません」
「……はい」

手を組み祈る。神よ、私に戯れで与えたとしても
今や私の大切な子供。どうか奪わないでください。

異界児、それは裂け目を信仰する教会にとって神の使いとされ
村や街一番の豪族の元でもてなされて暮らす。
この村で地主の血筋をもつ私はたまたま彼女の世話をする事になった。
妻を持たない私には、ラキが唯一の家族なのだ。
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