第2章 巣立ち
……ニルダはどこからやってきたのか。
年頃はラキより少し上なのか顔つきは大人びている。
髪や目の色は明るい茶、肌はラキより人間らしい色だ。
そう思うと、ラキはやはりピュアヒューマンではないのか?
ピュアヒューマンの文化が500年前に衰退してから、
しばらくは人間の迫害があり今残るピュアも野生化しているか
どこかで奴隷や家畜として飼われているという噂だ。
レグナは和気あいあいと食事をする少女たちを眺める。
司祭の話ではニルダは治療を適切に行えば三日で抜糸できるとの事だった。
しかし麻痺針の効果残りや傷が開く事を考えて五日は安静にすべきらしい。
唐突な子離れに自分の方が不安になっているのは分かっていた。
ラキはずっと、前を向いている。
ラキだって年端も行かないし普段は自分にベッタリなので、
やはり何か思う所があるのだろう。それが、
「(私にはとても、恐ろしい)」
予感がある、これからラキに沢山の困難や苦痛があると。
ラキだってそれはあるのだろうが、なぜ躊躇わないのか。
私にはラキを失うとしか思えないこの別れに、
ラキは私を失うとは感じないのだろうか。
いや、それはあまりにも自分勝手な考え方か。
私に出来るのは、そうならないよう万全の支度をしてやる事だけだ。
ぼやりとした不安を振り払おうと頭を振って立ち上がる。
「パパ?」
「私はもう戻るよ、ちゃんと薬を忘れないように」
「……うん」
ラキは不思議なものでいつも感情がコロコロ変わるが、
相手の気持ちが移りやすいように思う。
こんな事を考える私が居るのはきっと"万全な支度"にならない。
「大丈夫」「大丈夫」
言う前から分かっていたように繰り返された言葉に苦笑いをこぼす。
ラキもそうした。
レグナは小屋を後にする。
何も大丈夫ではない今もこれからも、それでも時は止まらない。