第2章 巣立ち
ニルダ用の治療ポーションの使い方、食事と野営の支度の仕方。
食べられたり薬になる植物やレシピのメモ帳。
護り火のランタンと裁縫セット、水こし装置。ナイフ、小鍋。
路銀と着替えの衣服。あとは当日食料を詰めるだけだ。
父は早くに親を亡くして一人で暮らしていたからか
手先も器用で支度などもテキパキしている。
それに比べてラキは器用とは言えなかった。
「おかわりもあるよ」
「あ……お願いします」
ニルダはカア、と赤くなりながら皿を差し出す。
食欲旺盛な自分よりも早いお代わりにラキはニコニコする。
シチューはご馳走で、本当なら誕生日でもなければ食べられなかった。
自慢の父が作るご馳走が美味しくない筈がない。
「そういえば司祭様が食料をとれない時は虫を食べなさいって言ってたよ」
「虫!?」
「司祭様は魔物や亜人を食べなくて済むようにいつも昆虫を食べてるんだ。
普通のナーガは一度食べたら一ヶ月くらい食べないらしいよ。
でも私は美味しくないから嫌だなぁ固いし……」
「父さんも虫は好きじゃないなぁ」
司祭様は教会に属する非暴力主義者なので食性を律している。
よく具合が悪そうにしては血を飲んでいるので、
本来ならもっと沢山食べなければならないのだろう。
だからこそ他者を食べるナーガや魔物から反発をされ、
吸血鬼の村に流れて来たのだ。
「む、虫は食べたくないかな……」
「大丈夫!お肉を食べれば良いんだからね!」
自信満々のラキと不安そうなニルダを見てレグナは笑った。
レグナは器用だが強くはなかった、センスと言えばいいのか。
そういうものはラキの方があると思っていた。
「パパ、まだ火はある?」
「あるよ」
ラキはバケットを片手に焚き火に近づき炙り出した。
香ばしい匂いにニルダが興味深そうに近寄る。
本当にわだかまりもなくやっていけそうだ。
ピュアヒューマンというのはもっと神経質で傲慢な生き物だ、
と勝手に思っていたレグナは後頭部をかく。