第11章 兆し
琵琶の音が鳴る。
無数の部屋が上下左右、重力を無視して組み重なる城。
そこに、猗窩座は居た。
ここに呼ばれると言う事は、上弦が鬼狩りにやられたという事だ。
辺りを見回すと、次々と琵琶の女に召喚された上弦が集まり出していた。
そして、ふと後ろに気配を感じる。
無惨様だ。
「妓夫太郎が死んだ。上弦の月が欠けた」
そう、落ち着いた声で上弦に話すが、その声色は怒りに満ちていた。
ーー
無惨は怒っていた。
鬼殺隊を、産屋敷一族を未だ葬れていない。
青い彼岸花を見つけられていない。
無惨以外の鬼の存在価値がわからなくなっていた。
怒りを露わにする無惨に、上弦達は口々に謝罪の言葉を述べる。
「妓夫太郎が戦った相手に日の呼吸に似た技を使う剣士がいる。耳飾りの剣士もだ。一刻も早く殺さなければいけない」
妓夫太郎の記憶から、無惨は炭治郎と名前を見ていた。
無惨は琵琶の女に目線をやると、琵琶の女はもう一度琵琶を鳴らした。
すると襖が勢い良く開き、そこには名前の兄が立っていた。
兄は以前より禍々しさが増え、人間の姿からは遠く変わっていた。
上弦達はその方を向く。
「新たな上弦の陸、不天楼(ふてんろう)だ」
不天楼、それは鬼になった兄の別名であった。
無惨はそう言うと続けて上弦の伍である玉壺へと目線をやる。
「先ほど言った剣士を探せ。そして情報が確定したら半天狗と不天楼と共に其処へ向かえ」
その言葉に名前の兄、不天楼が反応する。
「無惨様、お言葉ですが、わたくしだけでもできます」
よほど名前を敵視しているのだろう。
無惨はもう一度不天楼を見ると、次の瞬間には不天楼の口から上を吹き飛ばしていた。
「がっ……」
「つけあがるな。私に意見するな。上弦になれたからといえお前は弱い、すぐに死ぬのは目に見えている」
「無惨、様」
「私はお前に期待はしていない、これ以上私を不快にさせるな。それにお前にはまだ血縁の血を吸う必要がある。血を吸ったら鬼狩りに殺される前に惨めに下がれ」
ゆっくりと顔を修復させている不天楼をよそに無惨が続ける。
「そのためにまったく不快だが上弦を三体も向かわせるのだ。失敗したら私がお前を殺す」
無惨の言葉に兄は唇を噛み締めた。