第11章 兆し
蝶屋敷はその日一日中慌ただしかった。
夜明けと共に上弦の陸と戦った面々が瀕死の重症で運び込まれたからだ。
炭治郎が一番重症で、胡蝶しのぶは顔色を変えて手当をしていた。
伊之助と善逸も意識が無く、予断を許さない状況だった。
宇髄も通常なら一ヶ月は入院するほどの怪我だったが応急処置を終えるとしのぶの制止も聞かずに須磨、まきを、雛鶴と共に家に帰っていった。
名前も応急処置を終え、蝶屋敷の一室で点滴などを受けながらベットに横になっていた。
歩けるぐらいには回復したので帰りたかったが、しのぶに今日は入院していくようにきつく言われてしまった。
「気分はどうですか?」
目線をやると、しのぶが病室の扉を開けて名前を見ていた。
しのぶがここに居ると言うことは、炭治郎達の処置が終わったのだろうか。
『おかげさまで……炭治郎達は』
「今できる事は全てしました。あとは本人達次第ですね」
『そう、ですか』
今夜が山場になるだろうとしのぶは付け足す。
名前は天井を見上げる事しかできない。
「上弦は、やはり強いですか」
しのぶが問う。
『ええ、柱二人、炭治郎達も含めて五人でやっと……もっと強くならなければいけません』
「そうですか……」
名前はそう呟くと、睡魔に襲われて目を閉じた。
ーー
静かな病室。
名前の鎹鴉が窓際に留まる。
じっと名前が目を覚ますのを待っているようだった。
『起きてるよ、何?』
ゆっくりと目を開き、鎹鴉の方を向く。
「お館様ノトコロヘ回復シタラ音柱ト共ニ行ケ」
それだけ言うと、鎹鴉は飛び立って行く。
おそらく上弦の陸についての仔細報告と……この痣についてだろう。
日の呼吸と痣についてはお館様も鬼殺隊の過去の書物などで調べると仰っていた。
ここで名前に痣が出現したため、何か関連性がわかったのだろうか。
何はともあれ、名前も宇髄も重症で今日は行けそうにない。
早いところ回復しなければ。