第10章 遊郭後編
赤い炎が体を包む。
近くでは、堕姫が燃え上がり花街全体を震わすような悲鳴を上げている。
名前自身も燃えている感覚があるのだが
ふと、体が軽くなる。
なんだ、これは。
体が楽になった。
毒が抜けたのか?
……禰󠄀豆子のこの炎が毒を消し去ったのか?
助かった。
名前は二人から距離を取って立ち上がる。
毒を消せる事は堕姫に悟られてはいけない。
禰󠄀豆子は堕姫を何度も踏み潰し、蹴り倒していく。
堕姫は倒せるかもしれないが、妓夫太郎を一緒に倒さなければいけない。
何より……このままでは禰󠄀豆子が禰󠄀豆子でなくなる。
『禰󠄀豆子!!正気に戻れ!!戻れなくなるぞ!!』
名前は叫ぶも、今の禰󠄀豆子には聞こえないようだ。
ふと屋根の上に炭治郎の気配を感じ、降りてくるのを見ると炭治郎へ駆け寄る。
炭治郎も傷を負っていた。
「名前さんっ!!」
『炭治郎、禰󠄀豆子を早く眠らせるんだ……でないと人間まで襲ってしまう』
「はいっ!!」
状況を把握した炭治郎は禰󠄀豆子を止めに行く。
炭治郎の背中を見送ると目線を建物内に蹴り入れられた堕姫へと移す。
「柱ね……」
炎で皮膚を焼かれ通常以上に苛立っている堕姫は名前を見つけるとそう呟く。
その時、禰󠄀豆子が暴走を制御できずに炭治郎と共に堕姫の元に建物を破壊しながら飛んでいくのが見えた。
『何やってんだっ……』
あろうことか堕姫の近くに行ってしまった二人を見て名前は舌打ちをしながらその階まで瓦礫を足場に飛んでいく。
「……血鬼術も使えるの、鬼だけ燃やす奇妙な血鬼術」
堕姫はゆっくりと禰󠄀豆子と炭治郎の方へ近づいていく。
その間に名前は入り込む。
『炭治郎、なんとかなりそうか?』
「ど、どうすればっ……!!」
禰󠄀豆子は今炭治郎に全力で押さえつけられてようやくその場に留まっている状態だ。
血を吸う代わりに眠って体力を回復する禰󠄀豆子に今できる事は。
『……落ち着け、ゆっくり、ゆっくり子守唄を歌ってあげろ』
視線だけは堕姫から外さずにそう炭治郎に告げた。