第10章 遊郭後編
「生身の者は鬼のようにはいかない。なぜ奪う?なぜ命を踏みつけにする?何が楽しい?何が面白い?命をなんだと思っているんだ」
妓夫太郎は目の前の名前と目の奥で重なる記憶に困惑していた。
堕姫とは動きや思考は常に共有しているが、これは堕姫の見ている風景だった。
しかしその記憶は今自分自身が対峙している名前だった。
「どういうことだぁ?」
その異様な雰囲気に名前も遠くの異変を感じとった。
この感じは、炭治郎か。
しかし、いつもの炭治郎とどこか違う。
自分自身に近いような。
いや……呼吸、呼吸が近い。
『うぐっ……』
妓夫太郎に腹を蹴られ、妓夫太郎の体に突き刺さった刀が抜けた。
後ろに回転しながら距離を取る。
そして、そのまま膝が地面に着く。
まずい、もう毒がかなりまわっている。
「もう立てねぇか?……あとは放っておいても死ぬだろなあ。あぁ、堕姫は何やってんだぁ?やられそうじゃねえかよ」
他の鬼の状況が読めるのか。
いや、今まで何日も花街に潜り込み感じてきた違和感は……
『二人で一つの鬼……』
名前の小さな声に妓夫太郎の眉が微かに上がる。
「俺達は兄妹だからよぉ、一緒なんだよなあ」
その瞬間、名前は目を見開く。
仮定の話だが、もし一体の鬼が二体に分かれた時。
そのどちらかの頸を切っても意味がない可能性が高い。
つまり、頸は二体同時に斬らなけれはいけない。
「気づいたなぁ?お前がここでどんだけ頑張って万が一でも俺の頸を斬ったとしてもなぁ、無駄なんだよなぁ」
名前は一瞬で思考を巡らせる。
毒で動けなくなる前に炭治郎や宇髄達と何とか合流し、態勢を立て直さないといけない。
二体同時に頸を斬らなければいけない事を伝えなければいけない。
呼吸を使い足に力を入れ立ち上がり、思い切り踏み出す。
『肆ノ型、蒼穹の炎天!!』
足を軸に体を反転させ勢いを付け、刀を振り上げる。
青の炎が渦を巻いて妓夫太郎を巻き込んだ。
そしてそのまま、名前は妓夫太郎の目の前から姿を消した。