第10章 遊郭後編
炭治郎はその日の夜、伊之助との約束のため、ときと屋を出た。
鯉夏に別れの挨拶をした後に、鬼の匂いを感じた。
荻本屋で一番と言われていた蕨姫花魁が鬼だと知るのにそう時間はかからなかった。
鬼が操る帯に囚われていた鯉夏を助け出した後、炭治郎はどう倒そうか模索していた。
その時、遠くの方から帯が勢いよく鬼の元へ戻り、体に吸い込まれていくのを見た。
そして、何かを感じたようだ。
髪の色が黒から白へと変わる。
「やっぱり柱が来てたのね、よかった。あの方に喜んでもらえるわ」
炭治郎は目の前に居る蕨姫が姿を変えるのを見ると背筋がぞくりと震えるのを感じた。
格段に禍々しさが増した。
柱……宇隨さんや名前さんが動いてくれている。
そう思ったのも束の間。
「おい!なにをしてる!」
騒ぎを聞きつけた遊郭の主人が家から出てきてしまった。
今外に出ては危険すぎる。
「だめだ!下がってください!建物から出るな!!」
店の前で揉め事を起こしたくない主人が怒るよりも炭治郎は声を張り上げる。
しかし蕨姫花魁もとい上限の陸「堕姫」は一瞬にして目にも留まらぬ速さで帯を辺り一帯に鞭のような斬撃を加えた。
その瞬間、炭治郎は主人をかばい肩から腹にかけて深く傷を負ってしまった。
鮮血が吹き出る。
痛みと出血で意識が飛びそうになるも、なんとか足を踏ん張らせて耐える。
炭治郎の背後では腕を切られて呻いている主人が蹲っていた。
数秒遅れて、周辺の建物が大きい刃物で切られたように勢いよく崩れた。
遊女の叫び声が響き渡る。
「落ち着いて……あなたは助かります……腕を紐で縛って」
炭治郎はそう主人に告げると堕姫の姿を追う。
「待て……許さないぞ、こんなことをしておいて」
その言葉を聞いた堕姫は虫けらを見るような目つきを炭治郎に向けた。
「何?まだ何か言っているの?もういいわよ不細工。醜い人間に生きてる価値無いんだから。仲良くみんなで死に腐れろ」
炭治郎の鼓動が速くなる。
なんだ、この感覚は。
細胞の一つ一つが悲鳴をあげているようで、頭に血が上る。
そしてその鼓動は、炭治郎の目を赤く染めた。