第1章 序章
『お館様、失礼します。苗字名前です』
炭治郎と出会った後、名前は任務の報告のために産屋敷邸へと向かった。
鎹鴉を先に向かわせたので、大方の事は既に産屋敷へと伝わっているはずだ。
本来産屋敷邸に呼ばれるのは柱とその継子などの一部の人間だけだ。
柱のすぐ下の階級の甲である名前も任務の内容によっては産屋敷邸に呼ばれる事もある。
「よく来たね、名前。任務ご苦労様」
『お気遣い感謝致します』
大広間に入った名前は正座をして産屋敷に深々と一礼をした。
産屋敷は名前が飛ばした鎹鴉を手にとまらせて、名前の方を向いた。
そして名前は懐から最終選別の合格者の名前が入った紙を取り出す。
「五人も生き残ったのかい。優秀だね。また私の子供たちが増えた、どんな剣士になるのかな」
『はっ、合格者は不死川玄弥、嘴平伊之助、栗花落カナヲ、我妻善逸、そして竈門炭治郎の五人です』
産屋敷は目を伏せながら頷く。
病気により目はほとんど見えていない産屋敷だが、その辛さを感じさせない姿に、名前は眉を顰め心を痛めた。
『既に隊服の支給、玉鋼の選別は終了し、解散しています。これで今回の最終選別は終了となります』
「ご苦労様」
合格者の名前が入った紙を懐に仕舞い、名前は報告を終えると大広間を後にしようと産屋敷に向けて一礼をした。
「名前」
『は、何でしょうか』
立ち上がろうとしていた名前を産屋敷は引き止める。
「竈門炭治郎君とは話をしたかい?」
『え………』
突然の事に、呆気に取られた声を出してしまう。
「彼は君の探している人かもしれない」
産屋敷は何かを悟っているような表情を見せ名前に語りかける。
そうだ、あの耳飾りは……
「名前が竈門炭治郎を見定めたら、彼に話してあげなさい」
名前は産屋敷を見つめ、それから小さく返事をした。