第9章 遊郭前編
鯉夏の話はこうだ。
遊郭から突然姿を消す者がいる。
遊女が姿を消すとなると遊郭から逃げ出す「足抜け」だと思われるが、時に店の男も消える事があるらしい。
昔もあったが、最近は頻度が高いらしい。
そしてそれは一つの店だけでなく、いくつもの店で起きているらしい。
足抜けをしたにしても突然消息を断つこともあったそうで、鯉夏は不安に思っているらしい。
ーー
「最初の潜入としては上々だな。その花魁の言う通り突然消えた奴は鬼に殺されてる可能性があるな」
『……あの大金でこの情報量だと怒られそうなんですが』
「そんな事はない。鬼は一体以上って事がわかった。十分だ」
申し訳なさそうに言う名前に宇髄はそう返した。
確かに、鬼は一体では無いかもしれない。
十二鬼月だった場合、街の人の被害を出さないようにもっと応援が必要だ。
「まぁもう少し俺の嫁の情報を待ってから動こうと思うが、名前は療養も兼ねてるからこの藤の花の家でしばらく待機と言ったところか」
『分かりました』
「暇なら花街で遊んできてもいいぞ」
『いえ、遠慮します』
意地悪そうに笑う宇髄に名前は苦笑いでその誘いを断った。
ーー
それから十数日が経った。
名前はたまに花街へ潜入し噂話などの情報を収集していたが、最近は鬼も動きがなかったため、名前は自邸へと戻っていた。
溜まった書類の処理や任務の振り分けなどをしていると、ふと自分の部屋の屋根が静かに軋むのを感じた。
『……宇髄さん?』
気配を辿るとそれは宇髄のものだった。
小さく呟くと庭に影が降りた。
「名前、状況が変わった」
『どうしたんです?』
襖を開けながら部屋に入る宇髄に名前は書類を片付けながら聞いた。
宇髄の顔は少し険しい。
「嫁との連絡が途絶えた」
『途絶えた……?』
「定期連絡が届かなくなった。しかも三人いっぺんに。鬼が動き出したんだろう」
それは宇髄の嫁が鬼殺隊に繋がっていると知られたからだろう。
捕らわれているか、あるいは殺されているのか。
名前は立ち上がると椅子に掛けてあった羽織を羽織る。
『行きますか』
「ああ、だが俺たちは客として顔が知られてる。そこで、女の隊士を使って内部を調べる」