第1章 序章
名前の任務は簡単なようではあるが通常の隊員では中々出来ない。
まずは生き残った者を見つけ、日の出までに最終選別が始まった場所へと戻らせる事。
その合間に、惜しくも鬼にやられ亡くなった者の遺体の位置を鴉で報告し、可能な限り隠に回収させること。
始まりの場所に戻るまでが選別なため、帰路を手伝う事はしないし、大勢で案内すれば結果手助けをする形になってしまう。
従って、案内は一人でやらなければならない。
『さて、あとは…』
一時間程をかけて、生き残りの者を四人見つけた。
顔に大きな傷のある者、猪の面を被った者、黄色の髪を持つ者、蝶を纏った桃色の着物の者。
生き残りは四人か。
だが、見つけた死体と参加していた人数とで数が合わないような気がする。
死体も残されず鬼に食われたか、途中で選別を抜け出し藤襲山を既に下りているか。
そんな考えが頭を過るが、ふと血の匂いを感じると、即座にその方向に向けて地面を強く蹴る。
鬼ではなさそうな気配なため人間である事は間違いないが、果たして生きているか。
茂みを越えた先に居たのは一人の少年だった。
生きている方か、と名前はあえて足音をたてて近づく。
「え、あ、貴方は……?」
七日間の死闘の末、ボロボロになった服に土だらけの肌。あちこちに切傷や打ち傷を作っているが、一番大きい傷は額の傷だった。
少年もこちらが鬼ではない事から刀は向けては来ないが、いきなり現れた名前に連日の疲れからか掠れた声で聞いてきた。
『鬼殺隊だ。日の出と共に選別を終了する。あと一刻の間に始まりの場所へと戻りなさい』
「…は、はい」
『方角は東に真っ直ぐ。これでその額の傷を手当しなさい』
事務的に名前は少年に淡々と伝え、傷の手当が出来るようにと羽織の中に持っていた包帯を渡した。
その時目に入ったのは、少年の耳に着けられた花札の耳飾り。
「……あの、どうか…しましたか」
一瞬、名前が少年を見つめたまま固まったので、少年は不思議そうに聞いてきた。
名前は我に返ると耳飾りから視線を外した。
『いや、なんでもない。………貴方、名前は?』
少年の名前を聞く。
少年は瞬きをしながら背筋を伸ばし
「俺は竈門炭治郎です」
そう、凛とした声で名を告げた。