第2章 歯車が動き出す
なぜ珠世が日の呼吸を知っている?
どうして俺にそれを聞く?
『なぜそれを……?』
「やはり、ご存知ですね」
この珠世という鬼は分からない。
何を知っていて、何をしたいのか。
「私は鬼舞辻に騙され鬼となりました。そして鬼舞辻を抹殺したい、その思いで貴方にもお話しています」
敵対する気はない、むしろ鬼舞辻の討伐に加勢したい。そう言いたげな珠世に名前は話だけでも聞こうと小さく頷く。
「私は鬼舞辻と共に、日の呼吸を使う剣士に会った事があります。もう四百年も昔になりますが、その時鬼舞辻を瀕死の状態まで追い込んだのが、その方になります」
日の呼吸の剣士。
その最強の御業であれば、鬼舞辻を追い詰めることができるであろうと想像できる。
「貴方は、その御方に似ている」
珠世は静かに告げる。
名前もその真っ直ぐな瞳に詰まる息をゆっくりと吐いた。
「背格好だけではありません。あの時感じた感覚、気配も……それに鬼狩りからも鬼舞辻からも見つからないようにしていた私達を貴方はいとも簡単に見つけた……」
珠世の目が名前を捉え離さない。
「貴方は日の呼吸を……」
『使えない』
名前は珠世が言葉を急かし身を乗り出すのを一言で制止させた。
『期待を裏切って悪いが、俺は日の呼吸は使えない。継承もしていない』
名前は目線を下げた。
珠世が考えている事はわかった。
その剣士が自分と似ているならまた……日の呼吸を使えるのであれば鬼舞辻を倒せるかもしれないというからだろう。
「……そうですか」
珠世が少し残念そうに俯く。
名前はそんな珠世を見て意を決したように黒い瞳に微かに赤を灯した。
『でも……俺は日の呼吸の一族の末裔です』
「え……」
珠世は瞬きし呆気に取られる。
『正確には、日の呼吸の分家の末裔です』