第2章 歯車が動き出す
背の高い洋風の建物と、瓦屋根の建物が街を埋め尽くす。
宿屋と飯屋、土産店が大半を占めるこの宿場町は、東京から出入りする旅人の拠点となる街でもあった。
夜になったというのに、街は灯りが途切れない。
様々な人が行き交い、誰も他人を気にしない。
……そこに鬼が居ても、気づく事はない。
『さようなら、運が無かったね』
大通りを外れた人のいない小路で、名前は鬼の頸を斬った。
名前の予想に反してごくごく普通の鬼であり、周りに気付かれる事無くあっさりと任務を終えた。
なんというか、呆気なさすぎる。
すると、名前の肩に鎹鴉が留まる。
「名前、オワッタカ?」
『いや、まだだ』
「マダ?」
鎹鴉は鬼の気配を感じないのか小さい首を傾げて聞く。
(名前)はうん、と相槌をすると目を閉じて感覚を研ぎ澄ませる。
鬼の気配……微かにする。
分かりにくいけど、一、二……二人か。
名前は鬼特有の殺気や緊張感、血の匂いを頼りに鬼を探す。
通常ならば人が多くとも気配をすぐに感じ取れる名前だったが、この時は何かいつもと違い靄がかかったような感じがしていた。
しかし、鬼に近づくと気配は濃くなるので、大通りに出て少し歩き神経を研ぎ澄ませる。
何だこの不思議な感じは。
鬼のような、鬼ではないような。
そういう血鬼術を使う鬼なのかもしれない。
名前は腰の刀に手を添え、いつでも抜けるようにしながら気配の方へ行く。
ふと、微かな香りを感じる。
すぐにそのまま、気配の方へと地面を強く蹴る。
人混みを縫う様に近づく。
見えた、あの影だ。
『……?』
目の前に現れた鬼は二人。
一人は華奢で清楚な女の鬼。
それを守るようにもう一人、若年の男の鬼。
なんだ、なにか違う。
刀を抜こうとしたが、その姿に一瞬躊躇する。
殺気を感じない。
これだけ近くにいるのに、血の匂いがしない。
「なぜ俺達を見つけられた……?」
男の鬼が警戒しながら名前に聞く。
『鬼……なのか?』
名前が困惑しながら聞くと、女の鬼はゆっくりと名前と目を合わせ
目を見開いた。
「貴方は……あの時の……?」