第2章 歯車が動き出す
「じゃあなぁ、刀折ったりしたら、許さねぇからなぁ」
鋼鐵塚が刀を入れてきた箱を背中に背負い直し、炭治郎の方を向きそう言いながら、一足先に鱗滝の家を後にした。
炭治郎は鋼鐵塚を見送ると、中に居る名前を見る。
「一緒に帰らなくていいのですか……?護衛って言ってましたが」
『「刀」の護衛なのでね。それに日中だから心配要らないよ』
(名前)は変に理屈っぽく理由を言ってみるが、気になっている鬼の少女へと目を移した。
『炭治郎、君の妹と言ったが、なぜ鬼に?』
単刀直入に聞いてみる。
納得の行く答えが返ってこないと、名前は鬼を目の前にして刀を抜かない理由が無いのだ。
炭治郎は座り直し、部屋の日の当たらない所で小さくなっている鬼へ視線を送る。
「俺の家族は、二年前に妹の禰豆子以外鬼に殺されました。禰豆子は鬼になりましたが、この鬼になってから二年間、人間を食べていません」
二年も人間を食べていない。
名前は驚いた。
そんな話、聞いたことがない。
しかし人間を食べなくても、こうして理性を保っている事が現に事実としてあることに、名前はさらに目を見開いた。
「この件は表向きには内密だが、お館様と水柱の冨岡義勇が承知をしている」
『富岡さんも……?』
聞くと最初に鱗滝を紹介したのは富岡らしい。
話を聞けば聞くほど、名前は自分では判断を下す立場には無いと悟る。
一通り話を聞いた所で名前は出されていたお茶を一口啜った。
『今はあなた方を信用します、俺からは何も問いません』
その言葉に、ずっとその場に張り詰めていた空気が静かに解けるのを炭治郎は感じた。
「ありがとうございます」
『いえ……長居をして申し訳なかった。炭治郎、さっき任務が入っただろう。俺も近くに用があるから途中までだが一緒に行こう』
名前は先程鎹鴉が炭治郎に向けて初任務を言い渡していたのを思い出すと、ゆっくりと立ち上がった。