第11章 兆し
「オメーは本当にぼーっとしてんな!!人を呼べっつーの!!意識がもどりましたってよ!!馬鹿野郎が!!」
後藤の怒号が病室に響く。
カナヲは焦っているのか慌てながらぺこぺこと頭を下げた。
後藤がその勢いで蝶屋敷のみんなを呼びに行っている間、名前は炭治郎に近づいた。
「名前……さん」
『意識が戻って本当に良かった』
「名前さんの怪我は……?」
『もう大丈夫だよ、そんなことよりまずは自分の心配をしなね』
「は……い」
喉の怪我のせいか掠れるような声で炭治郎が言う。
少し経つと後藤により炭治郎の部屋に続々と人が集まってくる。
特にアオイは炭治郎達が代わりに任務に行っていたということもあり、泣くほど心配をしていた。
「他のみんなは……大丈夫ですか……?」
炭治郎は聞く。
『善逸はもう任務に復帰してるよ、嫌がってたけどね。宇髄さんも心配ない』
「いや音柱も天柱も頑丈すぎるんですよ、隠はみんな引いてましたよ」
名前の当然と言った口調に後藤が焦りながら言う。
「伊之助は……」
炭治郎が言った所で名前はふと天井に目をやる。
そこにどうやっているのか、天井に張り付いている伊之助が居た。
名前は探しても見つからなかったのはこう、一つの場所に留まらずにいるからだろうと苦笑いをした。
それから、蝶屋敷の面々は炭治郎が起きた事にしばらく喜びに浸っていたが、炭治郎がまた寝始めた所で解散し、カナヲと三人娘は重湯を作りに病室を出ていった。
病室に残ったのは伊之助と名前。
名前は寝ている炭治郎を見ている伊之助がこちらを向いたのを見て顔を傾げた。
『ん?』
「髪長、あの時、ありがとうな!!」
記憶を辿る。
妓夫太郎が伊之助を背中から刺した時、名前が庇ったおかげで心臓を逸らす事ができた。
内臓の位置を変えるという事できたとしても、名前の助けがなければ無事ではなかっただろう。
『いや、俺の方こそ』
名前もあの時、腕の痛みで一時伊之助と善逸に助けてもらった。
いつの間にか、炭治郎達は大きく成長していた。
その事実に、名前は口元を笑わせた。