第11章 兆し
「あ、天柱。お疲れ様です、どうしたんですか?」
名前は度々蝶屋敷に顔を出し、未だ意識の戻らない炭治郎のお見舞いに来ていた。
先週、伊之助が目を覚ました時は任務に出ていて立ち寄れなかったので、その後の経過も見たかった。
蝶屋敷の台所で作業をしていた隠の後藤に名前は声を掛けた。
『こんにちは。しのぶさん達忙しそうで。これ、切ってもらえますか?』
名前のその手には長方形の箱があった。
「なんですかそれ?」
『カステラです。任務の帰りに買って、炭治郎達にと思ったんだけど』
後藤は箱を受け取り開けてみると、蜂蜜の香りが部屋を包んだ。
「鼻がいいので近くに置いておけば目を覚ますかもしれませんね。分かりました。今切りますね」
そう言うと包丁を取り出し、カステラを均等に切っていった。
ーー
後藤にカステラを切ってもらっている間、名前は伊之助の姿を探した。
気配は確かに近くにいる感じがするが、元々伊之助は山で育ったせいか気配を感じ取りにくかった。
柱というだけで皆が緊張した面持ちをするので、名前は探し回るのをやめ台所に戻った。
「天柱、できましたよー。炭治郎の病室まで案内しますね」
『ありがとうございます』
後藤と名前は皿に綺麗に並べられたカステラを持ちながら炭治郎の病室に向かった。
ーー
炭治郎の病室に近づくと扉が開いているのがわかった。
「誰かお見舞いにきたのかな」
後藤がそう言いながら見ると、入り口にはなぜか花瓶が粉々に割れて落ちており、花と水が散らばっていた。
名前も何事かと思い後藤の後ろから覗くと、そこにはカナヲが炭治郎を見守るように座っている後ろ姿があった。
『栗花落……さん?』
そう呟くとカナヲは振り返り名前を見た。
後藤はカステラをベットの横の机に置く。
「あの、これカステラ天柱からです。しばらくしたら下げてください、痛傷みそうだったら食べちゃっていいので」
「あ……ありがとう……ございます」
返事をした人物を見た後藤と名前は目を点にした。
『炭治郎……?』
「って!!!意識戻ってんじゃねーか!!もっと騒げやあああ!!!」