第11章 兆し
鉄之助に刀鍛冶の里に来るように言われた名前だったが。
『仕方ない……』
療養期間に溜まっている事務仕事や担当地域を一ヶ月も空けられないということで、代わりの刀を受け取りその場は鉄之助に刀を預けた。
ただ、刀の打ち終わる頃に実際に名前に刀を見てもらいながら調整したいとのことで、一ヶ月後に刀鍛冶の里を訪問することになった。
「めっちゃ斬れる素晴らしい刀にしてみせるからな!!調整にちゃんと来いよ!?代わりの刀を言い訳に死んだりしたら殺すからな!!」
そう弱い悪役の捨て台詞のような言葉を残し、鉄之助は名前の家を去っていった。
嵐が去った後のような名前の部屋は静けさが戻っていた。
「相変わらず忙しいお人ですね、鐘白さんは」
そっと様子を見ていた女中のサナエが部屋に入ってきて名前の前にある冷たくなったお茶を温かいものに変える。
『でも腕はいいんだよね、信頼してるんだ』
名前はお茶を啜りながら、小さく呟いた。
ーー
その頃。
炭治郎は夢を見ていた。
名前さんに似た剣士が窓際に座っている。
俺はそこにおにぎりとお茶をお盆に乗せて持っていく。
そして、会話をする。
なんだろう。
この不思議な感覚は。
「私は大切なものを何一つ守れず、人生に置いてなすべきことを成せなかった者だ。なんの価値も無い男なのだ」
ああ、そんなふうに、そんなふうに言わないでほしい。
どうか、頼むから自分のことをそんなふうに
悲しい
悲しい……
花瓶の割れる音がする。
「大丈夫?戦いの後、二ヶ月間、意識が戻らなかったのよ」
驚いた顔の栗花落カナヲが炭治郎にそう言葉を掛ける。
ちょうど病室の花の水を替えているところだった。
「そう、なのか……そうか……」
未だ意識がはっきりしない炭治郎にカナヲは目尻に涙を溜めて言った。
「目が覚めて、良かった……」