第11章 兆し
それから一ヶ月が経った頃。
名前は経過観察のために蝶屋敷に寄っていた。
そして、炭治郎達のお見舞いも兼ねていた。
「あっ、名前さん!!」
ベットが多く並ぶ大部屋には善逸が居て、名前の姿を見ると顔を明るくした。
『善逸、傷は大丈夫?』
「はい〜〜……まだめちゃくちゃ痛いですけど、足なんて折れちゃって!それがもう痛くて痛くて!!」
包帯に巻かれた足を摩りながら名前に助けを求めるように泣きじゃくる。
しかし見た所足の骨折はほとんど治っていそうだったので名前は苦笑いを浮かべた。
「炭治郎と伊之助は個室です。まだ意識が戻ってなくて」
『そうか、ありがとう』
名前の聞きたいことを察したのだろう、善逸は泣いたままそう言った。
また今度カステラでも持っていけば、甘い匂いで起きるかもしれないな。
そう思いながら懐から小さな包みを取り出す。
『善逸だけ先にお見舞い。砂糖菓子だ』
包みには茶菓子が数個入っており、それを善逸は声にならない叫びをあげながら受け取るとひとくち口に含んだ。
「おいしーーーい!!入院食って質素で物足りないんですよねっ」
『それはよかった』
善逸は名前にお礼を言うと大切そうにその包みを机に置いた。
ーー
しのぶの経過観察を終え、名前は帰路についていた。
腕以外の傷はほぼ塞がり、以前のように任務も通常通りにできると。
やはり腕のヒビの傷は広がったまま治ることはなく、しのぶも前と同じように首を横に振るのみだった。
次、いつ兄と対峙しても良いようにしなければ。
自宅付近を歩いていたその時、後ろから名前を追う影があることに気づく。
名前は動きを止めて、振り向く。
『鉄之助、なにやってるの』
「ばれたかーー」
『これでも柱なもんで』
「名前!柱になったのか!そうかそうか!!めでたいこった!」
そこにいたのは、ひょっとこのお面を付けた背の小さい男だった。