第11章 兆し
『槇寿郎……さん』
煉獄の父、槇寿郎は大きな息を吐きながら部屋へと入ってくる。
その姿を名前は困ったような表情で追った。
名前が座る前に胡座をかくように座ると、名前を睨むように見た。
「父上っ、起きたんですかっ……」
「最初から起きてるよ」
千寿郎が慌てて槇寿郎に言う。
槇寿郎は気にせず、名前に問いかける。
「痣が、出ているな」
槇寿郎は名前の痣を見て言う。
槇寿郎は元炎柱。
炎柱在任時代はまだ名前は鬼殺隊に入ったばかりで、知ってはいたが話す機会は皆無だったため、話すのはこれが初めてだった。
『ええ……上弦の陸との戦いで……』
「やっぱりそうか、書いてある通りだな」
そう言いながら、槇寿郎は一冊の本を出して名前の前に置く。
『これは……』
「煉獄家に伝わる書物だ。日の呼吸についても少し書いてある。まだ調べれば色々と分かるかもしれないが」
そう言いながら、本を開く。
「日の呼吸の使い手には生まれつき赤い痣が額にあるそうだ。竈門炭治郎がそうだろう」
『……』
開かれた頁に書いてある文章を目で追っていく。
「君は日の呼吸の分家とはいえ子孫だ。その君に痣が出た。これから周りにも痣を出す者が現れるだろう」
『御館様もそう仰っていました』
「そうか……」
槇寿郎は一息着くと、もう一度名前を見た。
「今までとは違う事がいくつも起きている。俺は思う。竈門くんや……君が……無惨を倒してくれると」
槇寿郎の予想外の言葉に、名前は目を見開いた。
「無惨を倒す事、悲しみの連鎖を断つ事が、一番の杏寿郎への弔いになる」
この人も、たくさん悩んだのだろう。
炎柱を突然降りた時、何があったのだろうと思った。
炭治郎から少し聞いた話では、日の呼吸について知った時、自分の無力さに絶望したらしい。
分かる気がする。
子孫である自分が祖先のように、あの剣士のようになれるか不安で、自分があまりにも普通で。
今にも打ち拉がれてしまいそうになる時がある。
でも、前に進まなければいけない。
託されている。
想いを。そして、遺志を。
『必ず……俺達の代で無惨は倒します』
名前は前をしっかりと向いていた。