第11章 兆し
「始まりの呼吸の剣士の手記に、痣の者が一人現れると周りの者達にも痣が現れると書かれていてね」
少し話をするだけで息切れしてしまう産屋敷。
話の間に息を整えている間も、名前と宇髄は静かに産屋敷の次の言葉を待った。
「竈門炭治郎くんがこの時代の最初の痣の者。あの時炭治郎も痣が濃くなったと聞いている」
『仰る通りです』
「その影響で名前に痣が出たのだと思う」
苗字家にある古書にも確か同じことが書かれていた。
痣が鬼のように浮き上がるなど、炭治郎を見るまではあまり信じていなかったが、今は違う。
『あの時、俺は鬼の毒を受け、瓦礫に押しつぶされこのまま死ぬと感じました。とても体が熱く、無我夢中で刀を振るった時に痣が出ました』
あの時、風邪を引いた時のように体が熱かった。
そして、異常に心拍が速かった。
「手記ではこの痣は日の呼吸の剣士達に出ていた。名前に出るのは時間の問題だと思っていた」
産屋敷は分かっていて名前と炭治郎を引き合わせたのか。
流石の先見の明である。
「今後、また痣の者が現れたら正式に柱合会議を開こうと思う。そして、痣が現れた今、名前は鬼舞辻に目をつけられている可能性がある」
『……承知しております』
これからはさらに慎重にならなければいけない。
そして、早く傷を癒し、一刻も早く強くならなければ。
ーー
産屋敷の館を後にした名前と宇髄は林の中を歩いていた。
名前は何か思いつめたように産屋敷邸を出た後、一言も喋らずにいた。
「おい、大丈夫か?」
『え……あ、はい……』
宇髄が心配そうに声をかけるも、呆けた返答しかできない名前。
「まあ無理もねえか。痣のことは俺にはあんまり分からねぇけどよ、やることは決まってる」
『宇髄さん……』
「上弦を倒して、鬼舞辻を倒す。これだけだ」
名前は宇髄の方を向く。
ちょうど目の包帯に隠れ表情はよく読み取れなかったが、多分戦力外になってしまった自身を責めているような気配がしていた。