第4章 とろけるバター煮込み
とうとう約束の日がきた。
支給された防寒具と、簡易的な調理器具、十分な食料と調味料を馬に積み、ハイラル城門の下で君主を待つ。
まだ夜明け前、辺りは嘘みたいに静まり返っていて、見たことない城下町の様子に、は少しだけ興奮した。
遠くに行くのは久しぶり。
ビストロの2号店を建てるために、ハテノ村へ2・3回行ったきりで、それ以外の場所は行ったことがなかった。
一昨日の夜、ゼルダからリト族の話を聞いた時は驚いた。
ハイラル人以外の人種が国内にいるなんて驚いた。余所者の自分がそんなことを思うのはおかしな話なのかもしれないが。
は幼少期に、隣国からハイラル王国に来たため、ハイリア人ではない。
神の声を聞くといわれている長い耳は無い。
耳先が尖った、御伽噺に出てくるエルフのような出で立ちだ。
それ以外は何ら変わりない。
お国柄か人柄か、今まで宮廷料理人時代の同僚や友人からは深く聞かれることはなかったし、ビストロ仲間からはただ耳が短いだけのハイリア人としか思われていなかったようだった。
空を飛ぶ鳥を、なんとなく目で追う。
ここへ来て以来初めて胸が高鳴るような気持ちだった。
遊びに行く訳では無いが、またゼルダに会えたこと、こうして国に仕えることができたこと、見知らぬ土地への少しばかりの旅は、城下町で変わり映えなくビストロを営んでいたにとって、刺激的な経験になりそうだ。
と、今はこうして楽しみな気持ちが勝っているが、それも本当は今日の夜までで、まさかあんなことになるなんてこの時は思いもしなかった。
そしてそのさらに先は、もっと闇深く、辛く厳しい未来が待っている。
「おはようございます」
「うっわあ!?びっくりした」
声をかけてきたのはリンクだった。今日は甲冑を着ていない。
「おはよう、今日は身軽だね」
「動きやすいし、防寒具を上から羽織れますので」
彼は淡々と話すと、背中の剣を背負い直す。
こんなに重そうな剣、軽々と背負うとは…と関心すると、ふと思い出すことがあった。
あのさ、リンク…と声をかけようとした。
「ー!おはようございます!お待たせしましたー!」
城の方からの大きな声に振り向くと、動きやすそうな青い服に身を包んだゼルダが、白馬を引きながらこちらへ歩いてくるのが見えた。