第3章 デミグラスソースに血が騒ぐ
「こうしてまた、とゆっくりお話ができるなんて、理由が理由ではありますが、ちょっと嬉しいです」
「私もです、姫様。もともと外の人間なので、『厄災』の脅威がどれほどか、未だ検討もつきませんが…一料理人として、精一杯頑張りますね」
がそう言うと、少しだけゼルダの顔が曇った。
「…ありがとうございます、。すみません、私かま非力なばかりに…」
カンテラの炎が、よりゼルダの影を落として見せた。
心做しか、彼女の目の下には疲労と隈がある。
「本来ならば民に助けを乞う前に、私が封印の力をもって民を安心させなければいけない立場なのに…まだ、発現しないんです」
厨房に行くのを止められたのはそういうことだったのか、とは悟った。ビストロに来た時も、食事中も、どこか物憂げだったのは。
そんな彼女の心境を全て理解することはできない。
私に出来ることは、彼女が少しでも笑顔でいてもらえるように、美味しく体力のつく料理を提供することだ。
せめて、お母様がいてくれれば…と言葉を続けるゼルダは、まるで幼子のようにも見えた。
実際、彼女と私は年が5つ離れている。一刻の姫でありながらも、やはりまだ若い。理由がこれにあらずとも、母親が恋しくなるのも然り。
黙って話を聞いていると、が無言なことに焦って「すみません、弱音を吐いてしまって」と謝り倒してきた。
「いいんです、いいんですよ姫様。不安な気持ちはお察しします。全部理解できるなんて、そんな傲慢なことは言えませんが、何があっても私は貴女の味方です。どんな結末になっても、私は絶対に貴女を責めたりしません」
せめて今だけは、この安らかな時間に身を任せて欲しい。
「…ありがとうございます」
テーブルに置いたの手を、ギュッと握った。
その上から、は自身の手を重ねる。大丈夫だ、と言うように。
聡明な彼女がこれ以上傷つかないように、いつか心から笑えるように…とはひっそりと願った。