第3章 デミグラスソースに血が騒ぐ
緊張しながらここへ座っているが、そうなるまでの出来事があまりにも目まぐるしすぎて、は殆ど覚えていなかった。
城に着くや否や、まず門番から「さん!?お久しぶりです!」と声をかけられた。
それに対し、「お疲れ様です、ご無沙汰してます」と答えて門をくぐると、その先には女性の使用人が2人いて、の姿を見るとスカートの裾を持って走ってきた。
そして口早にこれからの事をガトリング砲の如く伝えられ、はただただ黙って小刻みに頷くしか無かった。
それを同意と見た使用人たちは、「こちらです!」と行って城の中へ引っ張って行く。
途中色んな懐かしい顔ぶれの人達に会った気がするが、ほんとに一言くらいしか声をかけられず、気がついたらとある部屋に連れてこられていた。
荷物はいつの間にか無くなっており、あれ?どこで誰かに渡したかな…と考えてるうちに使用人たちによる着せ替えが始まった。
正面に姿見があり、次々と衣服を当てられていく。
この使用人2人は初めて見た顔だが、どうもスピーディに仕事が出来るようで、無駄のない動きでの身支度が整えられていく。
結局、樹海のような深い緑色のドレスに決まり、手際よく脱がされてそれを着せられる。
サイズは少し大きめな気がするが、コルセットでぎゅっと締められると、ちょうどよくなった。
今度は鏡台の前に座らされ、髪を触られた。
慣れない感覚に、は少し身じろぎする。
髪は短いからこのままでいいわね、と何だかいい匂いのするオイルを髪に撫でつけられ、少しばかり重くなったような感覚にはやはり慣れてないからか首を傾げた。
細身のに合ったドレスは襟元と裾、袖口に花の蔓のような白い刺繍が施されており、庶民が着るには勿体ないくらいの物だ。
同じような刺繍が施された黒い靴も差し出され、履いてみると身長が少しだけ伸びた。
緊張が顔や体に出ていたのか、使用人の年若い女性が顔をのぞきこんできた。
「大丈夫ですか?」
「えぇ、はい…」
「私は噂でしか聞いたことありませんが、様はお城で料理長を務めていらっしゃったんですよね?王族はもちろん、騎士様や私たちのような使用人のお食事も、宮廷料理人の方々朝から晩まで作っていらして、本当に尊敬するわ」