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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第28章 今宵はふたりで【P273〜の続き、‎🤍&🐾 ♟️*】


バッと重ね合わされていた指を強かに振り払う。


「っ………!」

仮面の眼窩の奥の混沌を映す瞳を叱咤するように彼を見据えると、

その薄い唇が蠱惑的な笑みを描いた。



「どうやら効いてきたようだね」

くすくすと微笑いながら、その指が彼女の顎を上向かせる。

ゆっくりとした所作で小さな頤をなぞるように指が滑り、

力の抜け落ちた指を叱咤して、ドンッとその胸を押しのけた。



彼のおもてを見ないまま、足早にダンスホールへと戻ろうとするとその唇がひらく。



「そんなにあの男がいいのか」

その声に思わず足を止めると、

椅子から立ち上がったフェリスが大股にこちらへと歩み寄ってくる。



あっという間にその腕のなかへと囚われ、

彼の胸を押し戻そうとする指はいとも容易く封じられた。



その指がヴァリスの仮面を取り払い、その瞬間彼を睨み付ける。

けれどヴァリスはくすくすと笑みを零しながらその視線を躱すだけで、指を解くことはなかった。



寧ろより強く抱き寄せられ、ヴァリスはその指を払おうと試みる。

触れる指は優しく、紳士的な彼の内面が滲み出るよな所作なのに、ただただ不快で悍ましい。



「………っ!」

蛭に吸い付かれてるかのような嫌悪感を声に宿してしまいそうになりながらも、

必死にその感覚を嚥下する。



(駄目………ッ。だって、ここで私が彼を拒んだら、)

相手は富も権力もある貴族だよ。

きっと彼の立場ならば、悪魔執事の皆の悪評を吹聴ふることだって簡単にできる筈。

そしてそれによって、皆が今よりさらに迫害を受ける事態に陥るんだ。



みずからの内で渦巻く逆さ合わせの思考と感覚がその身の外面に出てしまわないよう、

深く息を吸った時、頭上から呻くような声が降ってくる。
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