第6章 初めての上陸
コンコン……
『ローさん、準備できました。』
扉越しに話し掛けると、足音が聞こえ目の前の扉が開かれる。
数十分前の彼女とは違い、新しい服に髪も整えられた姿に一瞬時が止まる。彼女の姿にローは見惚れてしまっていた。
それに自分が選んだ服を身に付けた彼女の姿に僅かに口角が上がる。
「……悪くねぇ。行くぞ。」
ほんの少し赤く染まった頬を隠すように帽子を深く被り直すと、の腰を抱いて街の方へと歩き始めた。
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何処へ行くかはまだ聞いていないが、迷いのない歩みに何となく店は決まっているように思えた。
だが、それよりもさっきより気になるのはローとの距離感だ。
船を降りて街に出てから、より一層ローと身体が密着している様に感じる。少し距離を取ろうと離れようものなら、腰に巻かれた腕が彼の方へぐいぐいと引き寄せられる。
幾ら恋愛に疎いとはいえ、も年頃の女だ。船長とはいえ、顔の整った世に言うイケメンなローにこうして腰を抱かれて歩くのは胸がはち切れそうな程緊張するし、心臓が煩く鼓動を打つ。
(距離が近い……。これ、私の心臓持つかな…。)
耳まで顔を赤くしたまま、少し顔を俯けて彼の隣を歩いていたが、耐えかねたの口が小さく開く。
『あ、あの…ローさん。私一人でも歩けるので、その…距離が近くて緊張するというか…。』
辿々しく言葉を発するをローが見下ろすと、より腰に回されていた腕に力が入る。
「海賊とはいえお前はまだ殆ど闘えねぇだろ。それにお前はいつ襲われても可笑しくねぇんだ。何かあってからじゃ、遅ぇだろ。」
『ローさん…。すみません、私のことを考えてくれていたのに。』
確かに緊張するとはいえ、ローの言葉はもっともだ。は納得したように返事をした。勿論、ローの言葉は嘘ではないが、本心は彼女を取られたくないという気持ちからだった。
今まで一人の女にこんな独占欲を持った事など無かったが、彼女がこの船に来てからというもの、ドス黒い執着心、独占欲が心の奥底から沸々と湧き出始めているのを感じ始めていた。