第5章 鍛錬
(びっくりしたぁ…。)
部屋に一人残されたは呆然とベッドの上で座り込んでいた。
あんな恋人同士でする様な事をはされた事など無かった。
(きっと警戒心皆無の私を揶揄っただけなんだと思うけど…。)
ローに噛まれた首筋を指でなぞる。思い出すだけで頬が火照り始めた。
その時、部屋の扉からノック音が聞こえてきた。
「キャプテン!朝ご飯持ってきました!」
扉の外からペンギンの声がする。しかし、肝心のローはまだシャワーを浴びていた。
どうしようかと迷った挙句無視する事も出来ず、恐る恐る部屋の扉を開けると朝食のおにぎりを持ったペンギンが部屋の前に立っていた。
「おおっ!じゃないか。おはよう。キャプテンはまだ寝てるのか?…ってその首の跡どうした?!」
『首…ッ?!』
首の跡、そう言われて何か付いているのかと思い彼に噛まれた場所を押さえた瞬間、背後からローの長い腕が伸び、ペンギンが持ってきた朝食を受け取る。
「貰ってくぞ、ペンギン。」
そう言って、無慈悲にも部屋の扉が閉められた。
には見えなかったが、ペンギンはローの牽制する様な鋭い瞳と目が合い、体温が一気に下がるのを感じた。
まるでローが彼女は自分のモノだと主張している様だった。
(誰もキャプテンのものに手ぇ出す訳ねぇだろ。)
船長室の前に置いて行かれたペンギンはそそくさとその場を立ち去る。触らぬ神に祟りなしだ。
一方で、残されたは背後を振り返るとシャワーを浴びて直ぐなのか、腰にタオルを一枚だけ羽織ったローが朝食をテーブルへと運んでいた。
その姿に顔が再び赤く染まる。警戒心が無いと言うならそんな格好で目の前に出てこないで欲しい。刺激が強過ぎる。
「座れ。お前の分もある。」
『はい…。ありがとうございます。』
なるべく目を合わせない様にしたいが、向かいに座るとなれば視界に入らないわけにはいかない。ローはそんな自分を見て面白がっている様だった。
(せめて服くらい着て欲しい…。)
美味しい筈のおにぎりは何故か味がしなかった。