第1章 鬼灯の右腕
「お疲れ様でした。脱走した亡者達は無事戻って来ました?」
閻魔殿へと帰ると既に鬼灯は出先から戻り、机へと戻っていた。
『はい。意外と早く片付きましたよ。……もう少しストレス発散したかったですが。』
「コラコラ。亡者を痛め付ける事をストレス発散にしないでください。」
『だって………最近忙しくて、鬼灯様と一緒に居られる時間が少ないんですもの。』
鬼灯と椿の間には大きな秘密があった。それは2人が婚約しているということだ。この事は、閻魔大王すら知らない。2人だけの秘密だった。
椿の腕が鬼灯の背中へと回され、ぎゅっと距離を縮める。閻魔殿には今大王は不在であり、2人きりであった。
「全く、仕方の無い人ですね。私は隠しても隠さなくても何方でも良いですが、此処ではいつ他の獄卒が来ても可笑しくないんですから、程々に。」
仕事モードの鬼灯は予想通り余り構って貰えず椿の頬が不服そうに膨らむ。
『鬼灯様の意地悪。』
「私は意地悪したくて言ってる訳では無いんですよ。…今はこれで我慢して下さい。」
鬼灯の首が此方を向いたかと思えば、彼の冷たい手のひらが頬を包み、そのまま唇が重なる。
『ん…ッ……。もう、ずるい。キスなんかで許してませんからね。』
「でも、嫌じゃ無いでしょう?今日は早く仕事が片付きそうなので、夜は美味しいところにでも食べに行きますか?ご馳走しますよ。」
『本当ですか!?じゃあ許します…。楽しみにしてますからね、鬼灯様。』
突然の鬼灯からのデートの誘いに機嫌が良くなった椿の表情は楽しみで堪らないといった様子だった。彼女のこうした表情を見られるのは二人きりの時だけであった。
鬼灯は今日の夕飯を何処にするか予約しておかないとと考えていた。