第3章 鬼灯との出会い
山を降りた椿は、早速愛する婚約者に薬を二つ共飲ませた。すると、みるみる内に顔色は良くなり、元気を取り戻し、病は消え去った。
しかし、椿の顔を見るなり顔を険しく顰め、酷い言葉を投げ掛けた。
「何故お前のような下賎な女がここに居る。さっさと立ち去れ。お前の顔など見たくもない。」
椿は耳を疑った。自分の命までかけて助けた男にそんな事を言われるとは思わなかった。
そして追い討ちをかけるように、男はその日の内に別の貴族の娘と婚約したのだ。
これ程酷いことはあるだろうか。この世にもう未練などない。そう思い、鬼の待つ山奥へと戻っていった。
予想通りの表情をした椿を見て、鬼は大層嬉しそうだった。
「可哀想に。人間の男に恋などするからだ。お前は利用されたに過ぎない。だが、契約は契約だ。お前の魂戴くぞ。」
『……もうこの世に未練など御座いませぬ。好きにしてくだされ。』
目を瞑り、好きにしろと手を広げた時だった。
突然、大きな物音が鳴ったかと思い、目を開くと目の前に居た筈の鬼の顔に金棒が突き刺さっていた。
「こんな所に居ましたか。貴方、地獄で指名手配されているんですよ。漸く見つけました。」