第2章 道場破り
桃太郎騒動が一件落着したにも関わらずその後も業務に追われ、仕事が終わったのは定時から2時間も過ぎた後だった。
(今日、鬼灯様とご飯の約束してたけど…もうこんなにも遅くなってしまったし、また別の日に延期かなぁ…)
憂鬱な気持ちで閻魔殿へと戻ると、既に鬼灯は仕事を終えていた。
『鬼灯様、今戻りました。………もう、お店…閉まっちゃってますよね…?』
折角食事に誘ってもらえたのに、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。私がもっと早く仕事を片付けられていれば良かったのに。
「お帰りなさい。遅くまでお疲れ様でした。店は閉まっていますが、そんな事もあろうかと…。何をそんなにしょぼくれた顔をされているんです?」
『だって…私が仕事をもっと早く終えていればご飯、行くことが出来ました。折角鬼灯様が誘って下さったのに…。ごめんなさい。』
「……?何故貴方が謝るのですか。仕事が突然入るのは貴方の所為ではありませんよ。着いてきてください。」
そう言って鬼灯の大きな掌が椿の頭の上に覆い被ると優しく撫でられる。皆んなの前では厳しい鬼灯も2人きりになるとこうして優しさを見せてくれる。特別な時間だ。
鬼灯の言われるがまま、頷くとキュッと彼の着物の袖を握って着いて行った。
普段は客をもてなす為の部屋の扉を開くと、大きなテーブルの上には大好物であるお寿司が並べられており、板前の格好をした鬼が次から次へと寿司を握っていた。
『鬼灯様…これは…。』
「万が一を考えて、有名寿司店の板前を閻魔殿にお呼びしました。これなら幾ら仕事で遅くなっても大丈夫でしょう?」
『うわぁ…!嬉しいです!鬼灯様、ありがとうございます!』
美味しそうな香りに涎が垂れそうだ。まさか鬼灯がこんなサプライズを用意してくれるとは思わず、喜びの余り抱き締めてしまった。