第2章 道場破り
抱き付いてきた椿の頭を鬼灯はまるで子供を宥めるように撫でた。
「ほら、早くいただきましょう。今日もたくさん働いてお腹が空いているでしょう。」
『鬼灯様…。はい!ありがとうございます。では、いただきます。』
「いただきます。」
鬼灯にそう言われて名残惜しくも離れると、席に着いて並べられた寿司を食べていく。
どれも脂がのっていて、とても美味しかった。大好きな殿方と美味しい食事を摂る…これぞ至福のひと時だ。
『んー、どのネタも美味しい。』
「そうですね。さあ、遠慮なくどんどん食べてくださいね。」
『はい!』
これだけ美味しい寿司屋を閻魔殿に呼んだとすると幾らくらいかかるのかと一瞬頭を過ぎったが、遠慮をするのは申し訳ないと思って考えない事にした。
『美味しかったぁ…ご馳走様でした。こんなに幸せな時間を過ごせたのも鬼灯様のお陰です。ありがとうございます。私、鬼灯様と婚約して良かったぁ。』
「私もですよ、椿。貴方が幸せでいると此方まで嬉しく思うんです。貴方と婚姻関係を結べたのも実に幸運な事だったと思います。」
『鬼灯様も同じ気持ちだなんて、嬉しいなぁ…。』
鬼灯の言葉に普段部下達には厳しい仕事モードからは考えられないほど、椿の頬は緩んでいた。この表情も彼にしか見せない。