第2章 使命
「 ……夏って人の体調とか気持ちとか察するの早くね? 」
「 あ〜〜、確かに。 無理してるのとかもすぐバレるし 」
「 そォか? 別に普通だと思うけど……あ、春のおかげ? 春のせい? かもな 」
「 三途? 」
「 そ。 昔からそのままの自分で居るの嫌い人間だったからなァ………うちもだけど 」
特技は作り笑いと愛想笑い。 長所は空気が読めること。
中学時代はずっと2人でそうしてきた。
もともとの性格が嘘だったかのように、人が変わったかのように。
「 ホントの笑顔なンて春と2人のときぐらいだったし、別にソレが苦じゃねェし。 口角上げて目を細めて、声質変えて。 春はストレスしか溜まってなかったけどなァ。 うちは逆にその時間が好きだった。 大嫌いな自分じゃねェ別のナニカになれっからな 」
「 …夏っていつも自己肯定感低いよな。 もっと自信持ちゃいいのに 」
「 自信も何も、うちは自分のコトを信じたことがねェ。 消えてェと何度願ったことか 」
完成したリゾットを盛り付けた皿を蘭たちが座るテーブルに置く。
湯気とホワイトソースの香りがふわりと漂う空間で、誰も何も発さない。
普段じゃ有り得ねェ、どこか緊張して強張った面持ちに苦笑いしか出てこねェ。
「 ま、良いンだようちは。 …………ホラマイキー、バレてますから 」
「 ……悪い夏羽、聞くつもりは、 」
「 別にマイキーなら良いですって。 ……つーかマイキーが一番知ってるハズですし 」
僅かに眉を下げて謝るマイキーにも、同じく苦笑いを向けた。
驚いた様にマイキーとうちとの間で視線が往復するのもしょうがねェと思う。
うちは昔から耳が良かったのだが、【梵天】に入ってから余計に良くなった。
まァうちの場合はユダが多いのだが、敵が洩らす情報を一言一句聞き取れるように。
他にも、息をしているかしていないかの判断、脈があるかないかの判断、骨を折ったり筋を切ったりするギリギリのラインを見定めるときなどにも役立った。
だから、かたりとドアノブが音を立てていたのにも気がついていたのだ。