第1章 水色天国
「栗原!」
「ッか、海堂……」
冷や汗だらだらの彼女を見て彼はコートの外へ出た。申し訳なさは感じつつも、こんな状況下ではあるが、海堂が栗原を優しく抱き締め、甘い言葉でも囁くのではないかと桃城はやや期待していた。あの海堂のゴシップかもしれないと。
しかし、そんな期待もむなしく。海堂は一定の距離から彼女へ近付こうとせず、栗原は栗原で何とか平静を装おうと、下手くそな微笑みを浮かべていた。
「おいテメェ! コイツに何しやがった!」
「何するも何も話しかけただけだっての! 逃げそうだったから手ぇ掴もうとはしたけどよぉ」
それを聞いた海堂がブチッとキレそうになった瞬間、「なーにしてんのさ」と、桃城の背中に柔軟性のかたまりオバケみたいな先輩がひょいひょいと乗っかり、所謂おんぶ状態になった。
「あ、もしかして! 桃お前、栗原にセクハラしたんだろ~」
「ちょ、英二先輩! セクハラなんてしてねぇっスよ!」
みんなして栗原に何をしたかなんて確認するものだから桃城は何となく察するものがあった。