第1章 水色天国
あーでもこうでもないと友人と談笑していると、女子たちの小さな歓声があがった。何事かと視線を向けると、噂の王子様。
「えーっと……ああ、ねぇ、五十嵐さんはいる?」
「あ、は、はい! 五十嵐ぃ~!」
五十嵐という女生徒は桃城のクラスメイトで、女子テニス部に所属している。ご指名を受けた五十嵐はキャッと感激の悲鳴をあげた上でるんるんで彼女のもとへ向かった。五十嵐といえば、男勝りでややキツイ物言いが特徴的だったので、あんな乙女チックな一面もあるのかと衝撃を受けるばかり。
「ほぇー、五十嵐でもあんな顔すんだなぁ」
「なー」
「それにしてもキレイな顔してんな、栗原」
「お、桃お前惚れたかぁ?」
「んなわけあるか! 井田っちこそさっきから五十嵐のことばっか見てねぇか?」
「バッ……! 見てねぇよ! テキトーなこと言うなよ!」
「ほーん、なるほどなぁ」
友人の意外な想い人の存在に頬を緩ませつつ、桃城はその恋が成就したら何よりだと、友の幸せを願うばかりであった。