第1章 水色天国
桃城の学年には変わった人間がそこそこいるが、その中でもひときわ異彩を放つ存在があった。
"女子テニス部の王子様"。
桃城はその人物と言葉を交わしたことはなかったが、クラスメイトたちが時々話題にするから何となく知っている。
レディ・ファーストで物腰柔らか、いつも冷静で、眉目秀麗、頭脳明晰、運動神経抜群の非の打ち所がない優等生。一人称が「僕」であることに加え、短く切り揃えられた髪もあってか、王子様なんだそう。
実際、彼のクラスメイトの中にも彼女のファンがいるようで、女子がキャッキャと熱をあげている様子はちらほらと見ることができる。
(王子様なぁ~、そりゃ大層なこったぁ)
特に気にも留めず、桃城の意識は放課後へと飛ぶ。彼にとって、テニスと漫画と美味しいもの以外のことはさほど重要ではないのだ。
(今日も弁当うまかったなぁ)
昼休み、持参した4つの弁当すべてを平らげ、ごちそうさまをする。友人にも「桃、お前ホントによく食うよな~」と驚かれるが、彼にとってはこれが普通なのだ。
「まだまだ足りねーな、足りねーよ」
「そんなこと言ってると本当に桃みたいに丸くなるぜ?」
「俺ぁちゃんと動いてるから問題ねぇんだよ!」