第1章 水色天国
桃城が好奇の言葉を発せようと口を開いた瞬間だった。それまで俯いていた五十嵐が「あの……」おずおずとした様子で栗原に向かった。
「千紘ちゃんって、呼んでもいい?」
「え……?」
驚きのあまり、栗原は箸を落とし、桃城は頬杖をつこうとした手が机からずり落ち、井田は飲みかけのお茶を軽く吹き出した。視線を彷徨わせ、言葉を詰まらせる栗原をよそに五十嵐は続ける。
「今まで千紘ちゃんのこと、私達とは別次元の人みたいに思ってた。漫画のキャラっていうかなんていうか……とにかく特別扱いしてた。それが千紘ちゃんにとって迷惑なんだなんて1ミリも思いもしなかった。
だけどわかったの、千紘ちゃんのこと困らせてたって。本当にゴメン!!」
いきなり席を立ち上がり、風を切って頭を下げた。突然のことに教室は騒がしくなり、4人を見てざわつき出す。その様子に、栗原は余計に狼狽え、桃城を見た。