第1章 水色天国
(おいおい……俺にどうしろってんだよ)
困惑の視線を注がれても……桃城は肩を竦めた。ますます不安を募らせる栗原の表情に、ここで引くのは男がすたるような気がして、頭をわしわしと掻き、溜め息をついた。
「見せもんじゃねぇんだぞ」
手の甲を向け、ひらひらと合図するとざわめきつつ、クラスメイトはゆっくりと視線を外していった。しかし、どうしても気になる生徒はいるようで、時折こちらの様子を伺っていた。
「ありがとう、桃城」
「おうよ」
栗原が柔らかくそう微笑むと桃城の心臓は小さく音を立てた。繕っていない方が可愛いじゃんとつくづく思うのだった。
「五十嵐さん」
名前を呼ぶと、五十嵐は顔を上げた。その目には少しの哀しみが含まれていた。栗原は五十嵐の両手をそっと包み、名前を呼んだ。
「ありがとう」
その謝辞にどんな思いが込められていたのかは知らない。しかし、その場にいた3人はみな、なんだか胸がいっぱいになってしまって、黙り込んでしまった。